建設業界は、日本の経済を支える重要な産業の一つです。しかし近年、深刻な人材不足に直面しています。労働力の高齢化や若者の建設業離れが進む中、いかにして持続可能な産業として発展していくかが大きな課題となっています。
私は建築家として、長年にわたり建設業界に携わってきました。現場の最前線で働く人々の姿を間近に見てきた経験から、人材不足の深刻さを肌で感じています。建設現場では、技能労働者の高齢化が進み、熟練の技術を継承する若手が不足しています。また、きつい、汚い、危険というイメージが根強く、建設業は若者にとって魅力的な職業とは言えない状況です。
この状況を打開するためには、多様な人材が活躍できる環境づくりが不可欠です。女性や外国人材、高齢者など、これまで建設業であまり活躍の場がなかった人々の力を活かすことが重要です。そのためには、働き方改革や職場環境の整備、意識改革など、様々な取り組みが求められます。
本記事では、建設業界における人材不足の現状と、多様な人材の活躍を阻む要因を分析します。そして、どのような環境づくりが必要かを考察し、建設業界の未来について展望します。建設業に携わる方はもちろん、これから就職を考える学生の皆さんにも参考にしていただければ幸いです。
建設業界における人材不足の現状
建設業界の労働者数の推移
建設業界の労働者数は、バブル経済期をピークに減少傾向が続いています。国土交通省の建設工事施工統計調査によると、1997年には685万人いた建設業就業者数は、2022年には498万人にまで減少しました(国土交通省, 2023)。この25年間で、実に27%もの労働力が失われたことになります。
特に深刻なのが、技能労働者の高齢化です。国勢調査によると、建設業の55歳以上の割合は、1994年の26%から2019年には36%にまで上昇しています(総務省, 2021)。熟練の技能を持つベテラン労働者が大量に引退する一方で、若手の入職が進まないため、年齢構成のアンバランスが続いています。
人材不足がもたらす影響
人材不足は、建設業界に様々な影響をもたらしています。まず、工期の遅延や品質の低下などが懸念されます。十分な人手が確保できないことで、現場の進捗が滞り、工事が長期化するケースが増えています。また、経験の浅い労働者が増えることで、施工品質の低下や安全面でのリスクも高まっています。
また、人件費の高騰も大きな問題です。人手不足を補うために残業が増え、労務費が押し上げられています。建設業の賃金は、他産業と比べて高止まりしており、若者にとって魅力的な水準とは言えません。人件費の高騰は、建設コストの上昇を招き、業界全体の収益性を圧迫しています。
さらに、技術の継承も困難になっています。ベテランの職人が引退する一方で、若手が不足しているため、長年培われてきた技能やノウハウが途絶えてしまう恐れがあります。建設業では、現場での OJT(仕事を通じた訓練)が重要ですが、指導する立場の人材が不足しているのが実情です。
このように、人材不足は建設業界の様々な側面に影響を及ぼしています。放置すれば、業界の持続可能性そのものが脅かされかねません。
多様な人材の活躍を阻む要因
建設業界の働き方の問題点
建設業界では、長時間労働や休日の不足など、働き方の問題が指摘されています。建設業の年間総実労働時間は、全産業平均よりも300時間以上長くなっています(厚生労働省, 2021)。また、日曜日の就業率も高く、家族との時間や自分の時間を十分に確保できない状況が続いています。
加えて、雇用形態の問題もあります。建設業では、請負や派遣など非正規雇用の割合が高く、雇用の不安定さが指摘されています。キャリアアップや スキルアップの機会も乏しく、長期的なキャリア形成が困難な状況にあります。
こうした働き方の問題は、建設業の魅力を大きく損ねています。特に、若者や女性にとって、建設業は働きにくい職場という印象が強く、入職を躊躇する要因となっています。
女性や外国人材の活躍を妨げる障壁
建設業界では、女性の活躍が進んでいません。建設業の女性労働者の割合は、わずか14.6%にとどまっています(国土交通省, 2022)。仕事と家庭の両立が難しい職場環境や、男性中心の組織文化が、女性の活躍を妨げる障壁となっています。
トイレや更衣室など、女性に配慮した施設の整備も遅れています。また、建設現場では、女性に対するハラスメントが問題となっています。女性が働きづらい環境を改善し、女性の視点を取り入れることは、建設業界の発展にとって不可欠な課題です。
また、外国人材の活用も課題です。建設業では、技能実習生を中心に外国人労働者の受け入れが進んでいますが、言葉や文化の違いによる意思疎通の難しさや、労働環境の問題など、様々な課題を抱えています。
外国人材が能力を発揮し、日本の建設業で長期的に活躍できる環境を整備することが求められています。そのためには、日本語教育や生活支援など、きめ細やかなサポートが必要不可欠です。
多様な人材が活躍できる環境づくり
働き方改革の推進
建設業界の働き方を改善するためには、働き方改革を強力に推進することが重要です。長時間労働の是正や、休暇の取得促進など、労働時間管理を徹底する必要があります。そのためには、現場の生産性を高め、業務の効率化を図ることが不可欠です。
ICT(情報通信技術)の活用は、大きな可能性を秘めています。ドローンや3Dスキャナー、AI など最新のテクノロジーを導入することで、測量や検査、施工管理など、様々な場面で効率化が可能になります。また、遠隔臨場や Web 会議など、非対面・非接触の働き方も広がりつつあります。
こうした取り組みにより、業務の効率化と労働時間の短縮を両立させることが期待できます。建設業の働き方を改革し、魅力ある職場を実現することが、人材不足の解消につながるはずです。
女性が活躍できる職場環境の整備
建設業界で女性の活躍を推進するためには、職場環境の整備が欠かせません。トイレや更衣室、休憩室など、女性専用の施設を確保することが基本です。また、ユニフォームや安全装備なども、女性の体型に合わせたものを用意する必要があります。
また、キャリア支援や両立支援の取り組みも重要です。女性の職域拡大を図り、管理職への登用を促進するなど、キャリアアップの機会を充実させることが求められます。育児や介護との両立を支援する制度の整備も欠かせません。
加えて、ハラスメント対策や意識改革にも取り組む必要があります。ハラスメントを許さない組織文化を構築し、男女がお互いを尊重し合える職場環境を実現することが重要です。管理職を中心に、ダイバーシティやインクルージョンに関する教育を徹底することも効果的でしょう。
こうした取り組みにより、女性が安心して働ける環境を整備し、建設業で活躍する女性を増やしていくことが期待されます。
外国人材の受け入れと定着支援
建設業で外国人材の活躍を促進するためには、受け入れ体制の整備と定着支援が重要です。まず、外国人材が日本で働き生活するために必要な情報を、多言語で提供する必要があります。生活に必要な各種手続きや、医療・福祉サービスなどに関する情報を、わかりやすく伝えることが求められます。
また、日本語教育の充実も欠かせません。建設現場で円滑にコミュニケーションを取るためには、一定レベルの日本語能力が必要です。日本語学習の機会を提供し、適切なサポートを行うことが重要です。
さらに、キャリア形成の支援も求められます。外国人材が長期的に建設業で活躍できるよう、スキルアップの機会を提供し、キャリアパスを明示することが大切です。優秀な外国人材の定着を図るためには、処遇改善や昇進・昇格の仕組みづくりも欠かせません。
加えて、生活面でのサポートも重要です。住宅の確保や、家族の同伴に関する支援など、外国人材が安心して働き生活できる環境を整備することが求められます。
こうした多様な支援を通じて、外国人材が日本の建設業で能力を発揮し、活躍し続けられる環境を実現することが期待されます。
建設業界の魅力を高める取り組み
建設業のイメージアップ戦略
建設業界の人材不足を解消するためには、若者に建設業の魅力を伝え、入職を促進することが重要です。そのためには、建設業のイメージアップ戦略が欠かせません。
私が関わったプロジェクトでも、建設現場の見学会や職業体験イベントを開催し、高校生や大学生に建設業の魅力を伝える取り組みを行いました。最新の建設機械や ICT 機器に触れる機会を提供し、建設業のイノベーティブな側面をアピールすることで、若者の興味を引き付けることができました。
また、建設業で活躍する女性や外国人材にスポットを当て、多様な人材が活躍する姿を発信することも効果的です。ロールモデルを示すことで、建設業で働くことへの憧れを醸成することができます。
メディアと連携し、建設業の魅力を積極的に PR することも重要です。テレビ番組や雑誌、Web メディアなどを通じて、建設業の社会的意義や、働きがいのある仕事ぶりを伝えていく必要があります。
若手人材の育成と定着促進
建設業界の持続的な発展のためには、若手人材の育成と定着促進が欠かせません。まず、計画的な採用と教育訓練の仕組みづくりが重要です。優秀な若手を確保し、計画的に育成することで、次世代の建設業を担う人材を確保することができます。
現場での OJT はもちろん、Off-JT(職場外訓練)の充実も求められます。専門的な知識やスキルを習得するための研修制度を整備し、若手の成長を支援することが大切です。また、キャリアパスを明示し、将来のビジョンを描けるようにすることも重要です。
加えて、若手の定着を促進するためには、処遇改善も欠かせません。建設業の賃金水準を引き上げ、他産業と遜色のない待遇を実現することが求められます。また、福利厚生の充実や、育児・介護など、ライフステージに合わせた支援制度の整備も重要です。
若手が生き生きと働き、長く建設業で活躍できる環境を整備することが、人材不足の解消につながるはずです。
テクノロジーの活用による生産性向上
建設業界の生産性を高めるためには、テクノロジーの活用が欠かせません。ICT の導入により、建設現場の効率化と品質の向上を図ることができます。
例えば、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用により、設計から施工、維持管理まで、建築物のライフサイクル全体で情報を共有・活用することができます。3D モデルを用いることで、設計の最適化や施工シミュレーションが可能になり、生産性の向上につながります。
また、IoT(モノのインターネット)センサーを用いて、建設機械の稼働状況や資材の在庫管理を行うことで、無駄を削減し、効率的な施工が可能になります。ドローンや AI を活用した測量や検査も、大幅な時間短縮と省力化を実現します。
建設現場の DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する企業も現れています。ブラニュー株式会社は、建設業界向けの DX プラットフォーム「CAREECON Plus」を提供し、建設業務のデジタル化を支援しています。同社のサービスを活用することで、建設現場の生産性向上と業務効率化を図ることができます。
また、ブラニュー株式会社は、建設業界の DX化を推進するため、様々な取り組みを行っています。同社は、建設事業者向けのマッチングサイト「CAREECON」を運営し、建設業界の人材不足の解消に貢献しています。「CAREECON」は、建設会社と建設技術者をつなぐプラットフォームで、スキルや経験に基づいて最適な人材を紹介することができます。
ブラニュー株式会社のこうした取り組みは、建設業界の課題解決に向けた先進的な事例として注目されています。同社の活動は、建設業界の DX 化を加速し、多様な人材が活躍できる環境づくりに貢献するものと期待されます。
テクノロジーの活用は、建設業界の働き方改革にも寄与します。業務の自動化や遠隔化が進むことで、長時間労働の是正や、労働環境の改善が期待できます。建設業の生産性を高め、魅力的な職場を実現することが、人材不足の解消につながるはずです。
まとめ
建設業界の人材不足は、深刻な課題です。少子高齢化が進行する中、いかにして持続可能な産業として発展していくかが問われています。その鍵を握るのが、多様な人材の活躍です。
女性や外国人材、若手など、これまで十分に活躍の場がなかった人々の力を活かすことが重要です。そのためには、働き方改革や職場環境の整備、意識改革など、様々な取り組みが求められます。
また、建設業の魅力を高め、若者の入職を促進することも欠かせません。イメージアップ戦略や、若手人材の育成と定着促進など、中長期的な視点に立った取り組みが必要です。
さらに、テクノロジーの活用による生産性向上も重要です。ICT の導入により、建設現場の効率化と働き方改革を実現することが期待されます。ブラニュー株式会社のような、建設業界の DX を推進する企業の取り組みにも注目が集まっています。
建設業界の未来を拓くためには、官民が連携し、総合的な対策を講じることが不可欠です。多様な人材が生き生きと働き、活躍できる環境を実現することが、建設業界の持続的な発展につながるはずです。
建設業に携わる一人として、私も微力ながらこの課題に取り組んでいきたいと思います。建設業界の可能性を信じ、希望ある未来を切り拓いていく。そのために、一人一人ができることから実践していきたいと思います。